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西村京太郎『終着駅(ターミナル)殺人事件』レビュー

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西村京太郎『終着駅(ターミナル)殺人事件』レビュー

『終着駅(ターミナル)殺人事件』(光文社公式サイト)の物語は、「高校時代の同級生と久しぶりに再会することになった」というきっかけが与えられたことによって、東北(青森)出身の刑事・”亀さん”こと亀井刑事の上野駅への想いが、半分モノローグ、半分会話として語られることから始まります。

確かに、浅草寺(公式サイト)や駒形どぜう公式サイト)などがある浅草界隈もほど近く、駅裏にあるのは徳川将軍家や彰義隊に縁の寛永寺(寛永寺公式サイト寛永寺の歴史“)、彰義隊の墓所をはじめ、博物館、資料館、美術館等々の施設がこれでもかとばかりに残されている上野公園(上野恩賜公園公式サイト “公園内の施設一覧“)、その隣には広大な東大の本郷キャンパス、旧岩崎庭園、湯島天神等々、古代から近代にいたるまでの歴史と共にあった種々の施設が点在するなど、上野界隈は地理的な”ふるさと”であるのみならず、時空を超えた何かに思いを馳せることが出来るような場所でもありそうです。

亀井刑事曰く、同じ23区にある駅でも、上野駅には東京駅や新宿駅等と違って独特の旅情がある、半分は東北方面の空気でできた駅のように感じるという思いは、少なからず都会に出てきた同郷=青森県人の人物像描写にも(作中全編を貫く価値観として)反映されるのですが、まずはその前提が読者の目を欺くトリックとして使われます。

「話しをこのように展開させれば、読者はこのように思い込んでしまうだろう」というような、登場人物というよりは作者の意思で作られた巧妙な罠が仕掛けられていくのですが、概してこの手の”トリック”は西村京太郎さんワールドの妙で、稀有な魅力や読み応えの一つにあたる部分です(この点は、他の西村京太郎作品でも冴えわたります)。

“ターミナル殺人事件”では、東京に染まっていたとしても皆どこか純朴さを感じさせる面も持っている、昔と変わらず根はいい奴であり続けたに違いない、そういう描写を強調することによって、実際には世の辛酸を舐め、あるいは本能の赴くままに生きてしまった時間があったのだという現実の事情をカモフラージュしていきます。

同時に、そのこと(昔とは変わってしまったこと)が、舞台裏で登場人物間の連帯の強さとなってくるので、一部、「完全にやられた!」(さすがにこれは気づけないだろう)という展開もあったりします。

この巧妙に作られた話の筋が、本来のトリックと並行で仕掛けられつつ物語は進むため、物語の後半では「人間関係の妙」が巧妙に作る落とし穴にトリックを絡めてくる形になり、「やられた」感も二重三重となります。

最後の最後、作者側が犯人をほのめかすまで、犯人はわかりませんでした。

最後の最後で「事件が突発的な理由から起こったというよりは、積年の恨みの延長にあったものであること」が明かされる下りもまた逸品です。初読の際は相当なインパクトがあって、その部分だけは今でも覚えていました。

『ターミナル殺人事件』は、光文社から出版されている文庫版としては2009年の出版ですが、初版は1984年(昭和59年)、まだ国鉄在りし日のトラベルミステリです。

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