【ブックレビュー】今野信雄『江戸の旅』

街歩きブックレビュー

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今野信雄『江戸の旅』(岩波新書、1986年)

概要

ジャンル 日本史。江戸時代を中心とした庶民社会の「旅」事情。
テーマ 江戸時代の旅のみにフォーカスするのではなくて、「江戸以前の旅」から「明治以降の旅」までがフォローされています。タイトルにある「江戸の旅」は、全体の9割強を占めるメイン部分に該当。

 

あらすじ/感想

旅共々、旅にまつわる江戸社会についてもまとめられた『江戸の旅文化』に対し、『江戸の旅』では旅そのものに焦点が当てられていますが、江戸時代の旅に入るまでに少々のラグがあります。

古代以来の「人の流れ」を雑感してみたという趣向が凝らされた後でいよいよ本編へと入っていくのですが、このパートを通して著者が言いたいことは、恐らく「かつての旅には時代一流の文化と、その文化から派生した目的があった」ということなのでしょう。

かつての旅は、旅そのものに魅力となる「濃さ」が含まれていた、濃さはかつての不自由な交通インフラや時代特有の文化そのものから来ていたのだ、というような話ですか。

もちろん、今の旅には今の旅の良さがあると個人的には思っていますが、それとは別に、かつての旅にはかつての旅一流の良さがあったのだというのがここでの主張だと捉えています。

作中中盤では、そもそも「なぜ江戸時代の大掛かりな旅が国民の間で一大ブームになったのか」という話しが展開されますが、当時の世情などと共に、江戸社会で旅のプロモーター的な役割を果たした伊勢の御師(おんし)さんについても詳しく触れられています。

彼らが当時の文化や社会構造を上手に利用する形で、国民的行事としての伊勢参拝を仕掛けたのだ、という話しですね。

江戸時代の旅に入ったあとは、一般人の旅と共に大名行列の旅が語られたり、宿場町にあっての本陣、脇本陣、旅籠それぞれの事情や、旅の人の裏事情、飯盛女さんの実態等々が語られたりと、教科書的な知識から、それらが避けて通る「本当のところ」まで、余すことなく書き進められます。

旅の種類についても、メイン的な扱いになっている伊勢参拝の他、一般的な霊山信仰や湯治旅等についても触れられています。

今現在一般的にイメージされる「旅」というよりは、この作品で対象とされる「旅」は、「かつての時代の人の移動」みたいに、割と広範な「旅」が含まれているのも特徴だったりしますが、その分より生々しく、独特の風情を持った当時の旅が伝わってくるんですね。

終章に至って、昭和末期当時の「平板な、薄い旅批判」的なコメントが入ったりもするのですが、かつての旅って人生の一部であり、日常生活と対を為す要素だったんだななんてことを思わされます。

歴史が好き、「かつて」に思いをはせるのが好きだというような人にお勧めの一冊です。

ちなみに、中身には関係ない部分ですが、奥付を見ると、岩波新書の新刊が480円で買えた時代の一冊だったようです(現在は大体800円~1000円程度)。

1986年=昭和末期である61年の本ですね。400円台の新書、今の相場だと大体発行年の近い人気中古本の値段に該当しますが、気が付けば昭和は随分遠くなっていたようです。

内容以前に、そのあたりにも時代を感じさせられた一冊でした。

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