【ブックレビュー】神崎宣武『江戸の旅文化』

街歩きブックレビュー

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神崎宣武『江戸の旅文化』(岩波新書、2004年)

概要

ジャンル 日本史。江戸期の庶民社会を中心とした旅文化等の考察。
テーマ 特に「伊勢神宮の賑わい」「旅を広めた社会の構造」「湯治という旅」の三部構成でまとめられています。

 

あらすじ/感想

ガイドブックを片手に旅の装束を整えて、各地の宿屋を転々としながら目的地を目指す、道中では非日常を求めて目的から逸脱しない程度の羽目を外すといった、江戸時代の旅人のよくある旅話しがつづられています。

全国どこからどこへの旅であっても徒歩旅が原則となる上、箱根その他要所には関所があり、全ての身分の人が宿場町を利用することになるという「オリジナル時代劇」の世界の旅では、道中最大のお楽しみは食事の時間にあったようです。

驚くべきは、この時期の旅籠の献立は昭和前期頃までほぼそのまま引き継がれてきたということや、単品で見るなら現在でも旅の宿の食卓に上がる一品(魚の干物や根菜や豆腐など)が普通にあがっていたことでしょうか。

開国を境に劇的に改善される交通事情とは好対照であるというか、江戸期の食は既にそのくらいレベルの高いものだったんですね。

通常の旅籠の食事に比べ、伊勢神宮での食事はその数段上を行っていたようですが、そうなるとクライマックス(伊勢神宮詣で)への期待感にしても想像に難くない気がします。

旅そのものの実態が語られることに続き、江戸時代に「庶民の旅を可能とした社会構造」が語られます。

「百姓=専業農家ではない」、近世に百姓と呼ばれた人たちは「米以外のものも作っていた」農家をやりつつ、多くは副業にも手を出していたという事実は結構ものの本で語られていたりしますが、ここでもやはりそのような話がベースとされます。

「全ての百姓が士族階級の奴隷だったわけではなかった」どころか、生涯に一度の大きな旅行をする程度の財力の余裕がある農家が少なからずあったとのこと。

そのような層が一般的な農民(≒百姓)階級で、彼らが江戸期の旅文化を担ってきたのだという内容にまとめられています。

最後のパートである「湯治」にも読み応えがあるのですが、幕末の外国人観光客が初めて温泉と出会った時の話、特に日本人が当時から持っていた「大衆浴」(皆で温泉に浸かる事)の習慣に戸惑いつつ馴染んでいったというパートの話しは、とても興味深かったです。

ということで、全編を通じてという部分では、旅行を楽しもうとする当時の人たちの感性自体に、割と身近な「ご先祖様」感を感じられます。

「江戸」を描いた内容に活き活きした空気が伴っていて、割と全編が読みどころ、本編最後の一文まで含めて魅力ある一冊でした。

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