【ブックレビュー】西村京太郎『十津川警部 アキバ戦争』

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【ブックレビュー】『十津川警部 アキバ戦争』(徳間文庫、2010年)

概要

ジャンル サブカルミステリ
あらすじ 「明日香を、預かっている。一億円用意しろ」。秋葉原名物メイド喫茶の人気メイドが何者かにさらわれた。警視庁の捜査員たちは翻弄された末に身代金を奪われてしまう。そして、誘拐犯からさらなる要求が突きつけられた!十津川警部・亀井刑事の名コンビと、明日香のファンを自認する異能の“オタク三銃士”が、時に協力しつつ、時に相手を出し抜きながら、真相へと迫ってゆく(「BOOK」データベースより)。

感想

トラベルミステリといっても、電車のみではなく、車を使ったトリックも出てきます。

今となっては懐かしの「電車男」の影響か、『アキバ戦争』がリリースされた平成後半期、割と色んなところで「アキバ」絡みの創作を見かけた記憶がありますが、その中では一番面白いと感じた一作でした。

恐らくは綿密かつ質の高い取材の裏打ちがあってのことなのでしょうが、「色々わかってらっしゃるなぁ」という冒頭から核心へとつながっていく話しの流れ、あとは設定自体にも登場人物の言動にも無駄な危なっかしさが全くないので、安心して読むことが出来ました。

作品作りのヒントのためにと、ビジネスパートナーの息子(成人しています)に連れられて秋葉原のメイド喫茶に向かう著名な画家先生、という描写が物語のスタートです。

ここで、若くして死んだ自分の娘にそっくり、しかも「故人となった娘と同名」だという自身の作品のファンであるメイドさんとの縁が出来るのですが、ほどなくそのことが身代金目的の誘拐事件発生へとつながっていきます。

作中、有名な画家先生(60を過ぎたおじいさん)の深い愛情のようなものは感じるのですが、そこに気持ちの悪いギラつきが全くない、この辺の雰囲気作りはやっぱり「ならでは」。

作品のキーとなる「三人のオタク」にしても同様で、オタクはオタクなりの愛情全開です。

浮かび上がってくるのは黎明期の筋金入りのオタクさん達といった人物像でありながら、サブカルの現状にもフィットしているように見えるのも、西村京太郎ワールドならではでしょう。

あえて狙っているのかそれとも自然にそうなったのか、そんな彼らが作中佳境で「一番カッコイイ」ところへと入っていきます。

「三人のオタク」が十津川・亀さんを仲間として事件解決へと向かう展開は、オタクにとって冥利に尽きるのではないでしょうかなんていう、RPG的なファンタジーを彷彿とさせますが、それぞれの夢が夢として支えられたまま、「事件」解決に向かっていく展開には、独特の緊張感と暖かさがあります。

あとは「計4人のご主人様」に愛された、中身についても見た目のイメージそのままだったというメイドさんにしても、ある意味冥利に尽きるのかもしれません。

素直にそう感じられる暖かさのようなものがあるのも、このタイトルの魅力です。

クライマックスへと向かう展開の中で、「誘拐されたはず、被害者だったはずのメイドさんが、実は犯人の一味だったのか?」というような、これはこれで割と西村京太郎作品あるあるみたいな展開につながっていっちゃうのかなという、イヤな予感がしなくもない流れもあるにはあったのですが、逆にそのあたりのことを逆手に取るかのように物語はきれいにまとまっていき、そしていつものアキバへ、という形でクローズされます。

純粋に本格派ミステリを求めて読むというよりは、「西村京太郎風サブカル事件簿」みたいな読み方をすると楽しめると思います。

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