【blog/ミステリ小説レビュー】西村京太郎『幻奇島』(徳間文庫、1982年)

blog

この記事を読むのに必要な時間は約 1 分33秒です。

【blog/ミステリ小説レビュー】西村京太郎『幻奇島』(徳間文庫、1982年)

ある意味究極の「トラベル」ミステリ的な魅力を持った一作です。

物語が本線に入った後にはそれ以前とは別世界が用意されているのですが、本線前にはそのことは全く予感できず、かつ本線に入った後は「それ以前」を思い出すことも容易ではなくなります。民族の風習と絡んだ生活態様も、物語の重要な要素の一つとなる魅力的なものであるため、「それ以前」が割とどうでもよくなってしまうんですね。

陸と遠く隔絶された南の島=御神島が舞台なのですが、まずは開放的な島に隠されているように見える、島一流の風俗・慣習が、島の外の人間との間にギャップをもたらします。

主人公である内科医・西崎は、交通事故を起こしたことが原因となって御神島に左遷されてきているので、島に溶け込もうとする気持ちよりは自分自身の軸足を島外に持っているという心理状態が容易には消えません。

一方で、島の医師である西崎の前任者・吉田医師は、島の魅力の虜になってしまったようなお医者さんなので、西崎は自分の感覚との違いに戸惑うことになるのです。

吉田医師はどういう立場の人間なのだろう、この島を一刻も早く抜けたいと感じているのか、それとも本音としてはこの島に延々留まりたいと思っているのか。そんな西崎の戸惑いは、作中世界にうまいこと入ることが出来れば、ほぼそのまま読者の感覚にシンクロします。

主人公である内科医・西崎には多少なりとも都会ズレした感覚があることから、吉田医師の言葉の真意を測りかねてしまう嫌いがある上、「島には子供が生まれない」という深刻な現状と、その状態に対応する島の人の態度を聞くにつけ、良からぬイメージも増幅してしまうんです。

中盤までの展開だと、吉村昭さんの『破船』を彷彿とさせるようなお話なのかなと思えてくるようなくだりもあるのですが、それとはどこか別種のエンドが用意されています。最終的には西崎医師も島の人の価値観に共鳴して終わるという幕引きには、鮮やかで爽やかな読後感を与えてもらえました。

西村京太郎作品の中では異色作ですが、王道に勝るとも劣らない魅力や読み応えを持っています。

タイトルとURLをコピーしました