【ブックレビュー】西村京太郎『幻奇島』

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【ブックレビュー】『幻奇島』(徳間文庫、1982年)

概要

ジャンル 民俗学風ミステリ
あらすじ 雨の夜、いきなり車に飛び込んで重傷を負った女が、病院から失踪、謎めいた言葉を残して茅ヶ崎の海に消えた。飲酒運転をしていた病院勤務の内科医・西崎は、院長から、沖縄本島からも遙かに離れた御神島の診療所行きを命じられ、石垣島からの船中で、御神島に残る信仰文化の調査に赴く大学教授・清水とその秘書を知る。南海の果て、滅亡を予告された幻奇の島―。祭の日、西崎は茅ヶ崎の海に消えた女と瓜二つの島の娘と結ばれるが、翌日、海岸で清水教授の他殺体が発見される…。初期代表作の長篇本格推理。(「BOOK」データベースより)

感想

物語が本線に入った後には、本線に入る前とは別世界が用意されているのですが、本線前にはそのことは全く予感できず、かつ本線に入った後は「それ以前」を思い出すことも容易ではなくなります。

民族の風習と絡んだ生活態様も、物語の重要な要素の一つとなる魅力的なものであるため、「それ以前」が割とどうでもよくなってしまうんですね。

誤解を生じそうな表現かもしれませんが、ある意味究極の「トラベル」ミステリ的な魅力を持った一作で、まさにその世界に身を置いてみたいと思うか否かではなく、関連する話を色々読んでみたい、知ってみたいという形で興味を惹かれます。

陸と遠く隔絶された南の島=御神島が舞台なのですが、まずは開放的な島に隠されているように見える、島一流の風俗・慣習が、島の外の人間との間にギャップをもたらします。

そもそも主人公である内科医・西崎は、交通事故を起こしたことが原因となって御神島に左遷されてきているわけなんで、溶け込もうとする気持ちよりは自分自身の軸足を島外に持っているという心理状態が容易には消えません。

島の医師である西崎の前任者・吉田医師が、島の魅力の虜になってしまったようなお医者さんなので、吉田医師はどういう立場の人間なのだろう、この島を一刻も早く抜けたいと感じているのか、それとも本音としてはこの島に延々止まりたいと思っているのか、西崎はその辺りのギャップにも戸惑うことになるわけです。

ちなみにこの戸惑いは、作中世界にうまいこと入ることが出来れば、ほぼそのまま読者の感慨にシンクロします。

主人公である内科医・西崎には多少なりとも都会ズレした感覚があることから、吉田医師の言葉の真意を測りかねてしまう嫌いがある上、「島には子供が生まれない」という深刻な現状と、その状態に対応する島の人の態度を聞くにつけ、良からぬイメージも増幅してしまうんです。

中盤までの展開だと、例えば吉村昭さんの『破船』を彷彿とさせるようなお話なのかなと思えてくるようなくだりもあるのですが、それとはどこか別種のエンドが用意されています。最終的には西崎医師も島の人の価値観に共鳴して終わるという幕引きには、鮮やかで爽やかな読後感を与えてもらえました。

西村京太郎作品の中では異色作かもしれませんが、王道に勝るとも劣らない魅力や読み応えを持った、お勧め作品です。

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