鎌倉・湘南書籍レビュー

【書評/鎌倉・湘南関連書籍】『海街diary』

この記事を読むのに必要な時間は約 2 分49秒です。

吉田秋生『海街diary』(最終巻2018年、小学館flower comics)

メインの舞台は鎌倉の極楽寺周辺です。

作中には、のっけからのかなり重めなしがらみが描写されている他、追って横繋がりの人間関係も深掘りされていくのですが、それらすべてが謎の開放感に包まれつつ話しは進みます。

そもそもスタートが異母姉妹の同居生活開始にあるので、設定的にまるで軽い話しというわけにはいかない部分もあるのですが、そこは不思議なくらいすんなり入っていけます。

話の進展にとかく血縁が付いて回り、定期的にもめごとが発生したりもしますが、この辺りは好き嫌いが分かれてくるであろう部分ですね。

きちんと読めばストーリーの深みを味わえるところとなるのでしょうが、苦手であったとしても軽く流せるのであれば、それはそれでいいアクセントになってくれます。

そのことによって、結果的に自由が重くなりすぎない程度のしがらみが残されつつ話しが進む感じが与えられるからですが、読んでいくにつれ概ね心地よい距離感になじまされていくわけです。

それもこれも多分、一つには土地柄が為せる業というか、海が近い事に大きな理由があったりするのでしょう。

「過ぎ去ってしまった過去」が無かったことになるわけではなく、それが取るに足る思い出であれば一つ一つ吸収される形で次へ進んでいくのですが、辛い事悲しいことイラつき等々があっても、湘南・鎌倉という土地がそれを吸収し昇華してくれるような感じはとても心地よいです。

「海街」の読み方って人それぞれ色々あると思うのですが、個人的には登場人物たちのセリフは斜め読み、背景の方に意識を向ける形でポンポン読み進めていきました。

気が付くと法事でバチバチやっていたり、思いだしたようにドロついた男女の話しが出てきたりというような話しがほぼメインとなる前半パート、かなり好みが分かれそうではあるのですが、実際そのあたりは渦中の登場人物の表情と大まかなセリフを拾うだけでも話についていけます。

そうこうしているうちに、それまでドロついていた話しの中から芽生えてくる暖かい関係というのが、大体4巻あたりからぼちぼち育ち始めます。それでも隙あらば展開がドロついたりもするのですが、なんだかんだでこの辺からポジティブな勢いの方が勝ってくるんですね。

主人公すずとその同級生たちがいよいよ高校生になるという展開がもたらす流れなのかもしれませんが、前半だったら骨肉の争いが始まっていそうな場面で、主に色恋絡みの進展が描かれます。

7巻では告白ラッシュがはじまって、ヒロインすずの姉二人がおめでたい結末を迎え、もう一人の姉についてはおめでたいを通り越して結婚前のおめでたを迎え、そのままゴールインします。

それでも、ところによってはよりをかけて強烈なドロドロ話しと共にあったりするので、この作者さんは本当のところどんな話を描きたかったんだろうか、なんて思ったりする部分もぼちぼちあるにはありますね。

ちなみにヒロインすずちゃんは、最終巻でやたらあっさり付き合い始めることになります。それまで延々いい感じで来ていた、同じサッカーチームの風太くんとです。

学校帰りの稲村ケ崎の公園で、なしくずしに付き合っているという状態を確認し合った後、好きだ好きだ言い合ってくっつくわけですが、やたらあっさり感があります。

ヒロインですが、この辺りは姉たちのおまけっぽい描写ですね。

ただシチュエーション的には、鎌倉の海岸線デートって、鎌倉・藤沢界隈の高校生カップルが普通に通り過ぎていくようなシーンの一つではありそうです。

色んな読み方があって、感じる魅力も人それぞれかと思うのですが、個人的には、作中ほとんどのパートで鎌倉・湘南が舞台となったMV見てるような気分でした。

読むと鎌倉に行きたくなって来る漫画であることも確かですが、個人的な望みとしては、「海街diary」の高校生版が見てみたかったです。