まんがレビュー

【書評/まんがレビュー】『ホワイトアルバム』

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安達哲『ホワイトアルバム』(講談社コミックス全2巻、1988年)

とある落ちこぼれ高校に入学してしまった高校生5人を中心とした、入学直後から最初の大きなイベント=移動HRと銘打たれた船旅までの物語です。

イベント後は、そのまま作中に建てられたフラグを回収するターンを挟んで、卒後のパーティー、さらには春休み描写へと飛んで物語はエンドとなります。

「移動HR」の時期は明記されていないのですが、恐らくは入学から少し先くらいなんじゃないでしょうか。早ければ5~6月、遅くとも9~10月あたりですか。

作中には宿泊描写が無いので、多少大掛かりな遠足のようなイベントだったのでしょう。

なのでそこからいうなら、新入生たちが入学後打ち解けるまでをメインで描いただけの漫画だということになるわけです笑。

その部分だけで判断するのであれば、本当に「まだ何もやってないじゃん」というところで終わってしまっている漫画(単行本にして全二巻)なんですが、ある意味ほぼそこだけで作中世界の全てを描ききってしまっている、80年代~90年代の全短編ラブコメ漫画の中でも屈指の名作です。

ちなみに主人公グループは全部で5人、内訳は男子3人、女子2人です。

この中から強いて主演を男女一人ずつ選ぶとすると、地区を代表する進学校受験に失敗し、落ちこぼれ高に入学してしまった鮎川健一くん、藍沢由美さんです。

ネタバレしてしまうと、最終的に鮎川健一くんはもう一人の女子である今井亜紀子さんと、藍沢由美さんは鮎川くんとのW主演を勤めたともいえる臼井宏幸くんと、それぞれ結ばれます。

W主演というのは、この二人のキャラや立ち位置が水と油、光と影というくらいに対照的だというところから来ています。

どちらがより重要かという部分で、双方に甲乙つけがたい役割分担があるんですよ。

学校一の秀才である鮎川君に対して、落ちこぼれ校にギリギリ在籍している、16歳にして既に大人世界の住人である臼井くん、それでいてお互いどこかに相通ずるものを感じあい、認めあっている二人といった好対照を為していくわけです。

「好対照」は女子側にも反映されています。

臼井くんを「ヒロくん」と呼ぶ藍沢さんは鮎川くんとタメを張る優等生、一方で最終話付近で鮎川くんと結ばれる今井さんは、高校生にして既に「ヒロくん」と同じ世界の住人となっているような女子高生です。

この二人が、最終的に自分とまるで違う世界の住人と結ばれていくというストーリーに一切の無理がない、ギャップ分のハードルが激しい感情となって、強く結ばれていくわけです。

ちなみにこの「ぶっちぎりの優等生」と「作中随一の不良」がストーリーの屋台骨を支えていくという組み合わせは、後続連載の「キラキラ!」にも上位互換的な形で引き継がれています。

「ホワイトアルバム」では、まず最初の名場面が、この二人がそろってクラス委員に任命され職員室に呼び出された、その帰り道教室に向かう廊下の途中で感じた「春」にあります。

高々1~2か月前までの自分の希望とはまるで違う世界に身を置くことになってしまった、くすんだ校舎の中でそれでも感じ取ることが出来た春の風景は、たまたま開いていた窓からたまたま入ってきた春の強風に、教室まで運んでいくプリントが煽られ飛ばされてしまうシーンで描かれます。

沈んだ気分の中にそれでも訪れる春、という描写が絶妙でした。

その他にも作中の見せ場って結構そこかしこにあるのですが、「作中カップル」が結ばれるシーンも、やはりそれぞれ名シーンです。

作中カップルが結ばれる順序にしても良かったですし、そんな全てを併せのんだ上で訪れる最終話も良かったです。

ちなみに、安達哲さんの作品としては「ホワイトアルバム」の直後にマガジンで連載された「キラキラ!」、さらにその後時間を空けてヤンマガで連載された「お天気お姉さん」の方が恐らく有名で、かつ「ホワイトアルバム」というタイトルでは、コミックス発売の丁度10年後に発売された同名の18禁PCゲームが超有名になってしまったという、残念ながら今となっては「何か」の陰に隠れがちとなってしまった一作でもあります。

後から見返すと、必要な内容が全て盛り込まれた上で丁度のところで終わっているという形なので、「これは一体どういうことなんだろう」みたいな疑問が残らなくもないです。

好きな人は好きだけど、そうでない人からしたらまるで興味をそそられない漫画だったみたいな部分が、もしかするとあったのかもしれませんね。