西村京太郎著作選(書評)

【書評/西村京太郎著作選】元祖トラベルミステリ『寝台特急殺人事件』

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西村京太郎『寝台特急(ブルートレイン)殺人事件』(光文社文庫、2009年)

文庫版としては2009年の出版ですが、初出は昭和53年=1978年です。

昭和53年といえば、オイルショックによって戦後の高度経済成長が終焉の時を迎えて久しかった安定成長期真っ只中、第二次オイルショックの前年にあたる年ですね。まだまだ日本が(今に比べると)元気だった時代、JRがまだ国鉄だった頃、寝台特急=ブルートレインの全盛期の作品です。

ちなみに、文庫版の出版された2009年は、何の偶然か、寝台特急殺人事件に出てくる「富士」のラストランの年にあたりますが、惜しまれつつも寝台特急・富士が引退した2009年も、なんだかんだでもう10年以上昔となってしまいました。

「寝台特急殺人事件」は、それよりさらに30年ほど昔の話(今現在からであれば、42年前)で、作品冒頭、東京駅で出発前のブルートレインを目の前にした描写から物語が幕を開けます。

ブルートレイン在りし日の東京駅の夕方風景、ラッシュアワーを目前に控えたホームで出発を待つブルートレインとその乗客、ブルートレインに群がる小学生等々の中、この物語を引っ張っていくキーパーソンの一人として、「ブルートレイン乗車記」の取材を任された雑誌記者が登場します。

雑誌記者のブルートレイン乗車は、乗車記をそのまま記事にするために実際に乗ってみましたという旅です。

なのでその手の旅が好きな記者であれば随分役得な話しでもあるのですが、不運なことにこの記者は(命こそ助かりましたが)被害者の一人となってしまい、乗車したブルートレインでは殺人事件が発生しました。

そこで十津川警部の出番となるのですが、作中では成り行き的に、十津川警部と雑誌記者が共同戦線を張って事件解決に臨む下りもあります。

トリックと共に出てくる、深夜の岡山駅。以降トラベルミステリではしばしば出てくることになる、運転停車(荷物の積み下ろしや、乗務員の交代のための停車)が絡むシーンですね。

旅行中の決定的なワンシーンが見れた下りはまた、それまでバラバラになっていた殺人事件を巡る事実関係が、一本につながっていく瞬間でもありました。

ここからさらに難航しつつも、十津川警部の名推理が始まっていくことになるんですね。

一度読んでいるとはいえ、やはり歴史に残る名作。二度目でも十分楽しむことが出来ました。トラベルミステリの入り口としては超お勧めの一冊です。