西村京太郎著作選(書評)

【ブックレビュー/西村京太郎著作選】『Mの秘密 -東京・京都513・6キロの間-』

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西村京太郎『Mの秘密 -東京・京都513・6キロの間-』(角川文庫、2015年)

概要

ジャンル 歴史ミステリ
あらすじ スランプに陥ったミステリー作家の吉田は、執筆環境を変えようと、東京郊外の古い洋館を購入した。その屋敷には、終戦直後占領軍の高級将校が出入りしており、売り主の母は吉田茂がマッカーサーの下に送り込んだ、女スパイだったという噂があった。興味を持った吉田が国会図書館で文献にあたる日々を送っていたとき、十津川警部と亀井刑事の来訪を受ける。屋敷を仲介した不動産会社の社員が、何者かに殺害されたというのだが…(「BOOK」データベースより)。

感想

ジャンルを「歴史ミステリ」としましたが、「登場人物の〇〇が突然謎の死を遂げた」といったような、いわゆるミステリの要素は申し訳程度に付されているものです。

なので、その意味での「ミステリ」に期待して手に取ると恐らく肩透かしを食うことになりますが、それでも十分読めます。

恐らくそこは出版社の担当編集さんの販売戦略に関連した要素であって、著者の西村先生が描きたかったことと必ずしも一致していなかったのではないかと感じるんですよ。

最近の西村京太郎作品らしいといえばらしい、ミステリとしての色は全盛期に比べると薄め、ただしそれ以外の要素を加味して読むと深みがあるという、独特の味わいがあるためですね。

確かに、ミステリとして売られていたからこそ手に取った作品ではあったのですが、読んだ結果思ったこととしてはミステリ要素が無くても良かったかなと言う、中々難しい読後感を与えられました。

結局はミステリ要素抜きでも十分楽しめたし、その部分だけをもっと掘り下げてほしいと思ったパートすらあったのですが、終戦直後の日本における政治的混乱の要所が描かれた「Mの秘密」最大の魅力は、占領統治下の日本政治の矛盾点を問題提起した点にあります。

ちなみにタイトルのいう「M」とは、占領統治下の日本の最高権力者であった、かのダグラス・マッカーサーのことです。

このほか、作中ではもう二人ほど、イニシャル表記で「Y」という人物、さらに「K」という人物が出てくるのですが、それぞれ、Y=吉田茂、K=チャールズ・ケーディスです。

吉田茂は戦後日本の混乱期に長期政権を担った外務大臣上がりの首相、ケーディスは「新憲法」作成をはじめ、占領統治下の日本の再建築の要所を担ったものの、後にスキャンダルによって失墜することとなったGHQ・民政局の有力者ですね。

マッカーサーにうまく取り入ってはいたものの、ケーディスに憎悪の念を向けられていた吉田茂、マッカーサーとの不仲がささやかれ、かつGHQの有力者でありながら吉田茂に軽視されていたケーディス、吉田茂とは不思議と馬が合ったものの、ケーディスとの不仲が囁かれ続けたマッカーサーという三者三様の人間模様が、「ミステリ外のミステリ」を掘っていきます。

具体的には、憲法を柱とした占領統治を巡る問題のとらえ方に「M」「Y」「K」それぞれの違いがあって、その違いが意思疎通の融合やすれ違いとなりながら妥協点を見出し、具体化した時に「新憲法」を柱とした占領統治の矛盾点となっていく様子が描かれていきます。

このうち特にマッカーサーと吉田茂のやり取りを根拠とした戦後外交の作中解釈には、一部目を見張るものもあったのですが、戦後政治の一見分かりにくい部分がとても分かりやすく解説されています。

占領統治期間中の話しは、残された資料もそれほど多くない部分もあるので、摩訶不思議だと判断される要素も多く残されています。その意味でのミステリと捉えた場合には、かなり読み応えがありました。