西村京太郎著作選(書評)

【書評/西村京太郎著作選】湘南アイデンティティ(二葉文庫、2018年)

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【書評/西村京太郎著作選】湘南アイデンティティ(二葉文庫、2018年)

概要

ジャンル ミステリ
登場人物/あらすじ 湘南に住む30代の5人のエリート男性に、一夜同棲契約という奇妙な提案をする女性、小早川恵が現れた。その後、エリート男性のうちのひとりで、ベンチャー企業の社長である岸川の女性秘書が殺害される。捜査に乗り出した十津川警部のもとに、小早川恵と5人の男たちの関係が書かれた手紙や写真が届く。十津川は、男たちのなかに犯人がいると判断し、捜査の網を絞っていく(「BOOK」データベースより)。

感想

湘南在住の5人のエリート、およびその5人のエリートと「週一の恋人」契約を結んだ謎の美女。6人の関係性の必然がどこにあるのか、女性の目的はなんなのか、まるで明かされることなく終章まで進みますが、終章に入ると一気にすべての謎が解き明かされます。

そこに至って、それまでに読者が持っていたであろう様々な予断、例えば「奇妙な提案をする女性」である小早川恵さんのイメージをはじめ、5人の人間像なども割と見事にひっくり返ることになるんですね。

謎解きパートには「当たりミステリ」特有の疾走感がありますし、謎解きパートの疾走感は作品の丁寧な作りがもたらすものだということで、西村京太郎さんファンであれば、安心して読めるタイトルではあるでしょう。

ただし単純にミステリとして読むのであれば、例えば「女性秘書がなぜ殺害されたのか」については最後まで明かされないなど(「誰が?」についてはほのめかしがあります)、淡白な一面を持った作品かもしれません。

強いて言うなら、女性秘書は捜査一課の十津川・カメさんコンビを作中に登場させるために殺されてしまったのでは? みたいに取れてしまう部分もないわけではないのですが、そのあたりの事に目をつぶった上で設定や行間を汲んだ場合、社会派ミステリの要素を持っているといえないこともないです。

設定や登場人物像には、今の時代特有の空気が反映されているように見えなくもないためですが、例えば「一夜同棲契約」って、似たような話は今日日巷に普通にあふれていますからね。

そんなところから、1970年代の西村京太郎さんであれば、同じ設定でまた違った話が読めたかもしれないなどとも思えてくる感慨が、作品に深みを与えていたりもします。

でもそういうのは、純粋な「作品評」としてはどうなんだろうと思えなくもありません。

初読作としてはあまりお勧めできない気もしますが、「なんでもいいから西村京太郎作品を」みたいなときには、恐らく予定調和の中で楽しめるような一冊です。