ノンフィクション小説(書評)

【書評/ノンフィクション小説】『破獄』

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吉村昭『破獄』(新潮社、1986年)

概要

ジャンル ノンフィクション小説
登場人物等 昭和の実在の脱獄王、白鳥由栄(よしえ)さん(既に服役を終え、かつ故人となっている方なので敬称付きで。ちなみに性別は男性です)がモデルとされた小説です。

あらすじ/感想

二度ほどドラマ化され、脱獄王の実話についてはバラエティ番組でも取り上げられたようです。

読み始めは割と読みづらく感じることも多いのですが、一度その文体になれるとみるみる引き込まれていくという吉村昭さんの世界では、「脱獄王」は佐久間清太郎の名で登場します。

小説の特徴としては、ただ単に脱獄部分だけに焦点を当てるのではなくて、その脱獄が起こった時代の時代背景についてもきちんと深掘りをしています。

この辺は『破獄』に限らず、吉村昭さんの小説の特徴でもある部分ですね。

タイトルはちょっと忘れてしまったのですが(『生麦事件』か『桜田門外の変』、どちらかだったと思います)、かつて読んだ吉村昭さんの小説内の描写に、幕末の志士が名のある「先生」の元を巡り歩くシーンがありました。

小ざっぱりとした描写でありながら、まるで自分が当時の日本を渡り歩いているかのような気分になってくるほど鮮やかだったんですね。

『破獄』でそのシーンに該当するのは、厳冬期、酷寒の環境に置かれた刑務所内の描写の他、大空襲後や沖縄戦中の描写戦後の混乱の描写といった、日本社会の生々しい様子が描かれたシーンの数々です。

とくに樺太の刑務所では、無条件降伏後も侵攻を続けたソ連兵の蛮行によって、男の囚人は全員射殺され、女の囚人は軒並み暴行されという地獄絵図があった・・・といううわさが流れ、全員射殺とまではいかなかったとしても強姦事件は実際に頻繁に起こっていたようです。

その結果、樺太の刑務所の秩序は完全に失われて、刑期中の囚人が夜の酒場に自由に出入りすることもあったというように、境目がなくなってしまっていたんですね。

そういう様子をきちんと拾い上げた上で話しが作られていくので、監獄内と同じ程度には「監獄外」の描写にも力が入れられています。

なので、当時の社会のアンダーグラウンドな部分を世の中の動きと併せてしっかり読みたいなんて場合には、お勧めな一冊です。