【ブックレビュー】西村京太郎『4つの終止符』

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【ブックレビュー】『4つの終止符』(講談社文庫、1981年)

概要

ジャンル 社会派ミステリ
あらすじ 下町のおもちゃ工場で働く晋一は耳の不自由な青年だった。ある日、心臓病で寝たきりの母が怪死する。栄養剤から砒素が検出されたとき、容疑は晋一に集中した。すべてが不利な中で彼は無実を叫びつつ憤死する。そして馴染みのホステスも後を追う。彼をハメたのは誰? ヒューマニズムに裏打ちされた秀作。(Amazon紹介欄より)

感想

文庫版は1981年の出版ですが、作品の初版は1964年出版、著者初の長編書下ろしミステリです。

時刻表トリックではなく、人間関係の妙や言動がトリックとなっていく、そこに社会問題が絡められた、いわゆる社会派ミステリと呼ばれる作品ですね。

長編デビュー作でありながら、代表作の一つに数えられることもある名作ミステリです。

1960年代前半=昭和30年代が舞台ということで、当時まだ活気のあった町工場、町工場傍のバー、さらには付近にある薬局と、戦後昭和の下町を舞台とした懐かしい世界が描かれます。

その懐かしい世界で、工員さん、バーの女給さん、薬局の薬剤師さん達を巡る殺人事件が発生するのですが、事件の容疑者であり、作品の中心人物として描かれることになる人物・晋一は聴覚障害を持っていました。

結論から言うと彼は無罪なのですが、圧倒的な社会的弱者であるがゆえに、作中では比較的早い時期に、近代刑法が持つ原理の真逆を行く「推定有罪」的な圧力が働いてしまいます。

すなわち、作中ではほぼ序盤から、当時の聴覚障碍者をとりまく風景がどのようなものだったのかという部分の描写に力点が置かれ、それらのシーンがストーリーの核となって進みます。

社会的弱者として貧しい暮らしを余儀なくされた境遇にあって、事件の容疑者としてしか判断できないような悪材料のみが積み重なっていくのですが、その悪材料をとりまく周辺事情には、彼に利するものもぼちぼち混じっていて、作品中盤から佳境に至り、その部分からの巻き返しが展開されるわけです。

読みどころとしては、一つの事件を巡り、二重三重、あるいはそれ以上の事情が描写されつつ物語が展開される点です。

例えば、法廷における正義とはどのようなものなのか、報道が持つべき客観性・正義感とはどのようにあるべきものなのか、等々。

人間が皆等しく平等であることを理想とするのであれば、あまりに様々なものが欠けすぎている、そんな現実の中で悲劇が重なると同時に、「好意と好意が交錯する間に入り込んできた悪意が起こした、いわばもらい事故だった」という、事件を取り巻くやるせない真実も見えてきます。

救われないといえば救われない話はまた、人の温かみの大切さを教えてくれる物語でもあるのですが、それでも悪くはない読後感と共に、様々な問題意識を与えてもらえます。

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