【ブックレビュー】西村京太郎『天使の傷痕』

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【ブックレビュー】『天使の傷痕』(講談社文庫、1976年)

概要

ジャンル 社会派ミステリ
登場人物等 武蔵野の雑木林で殺人事件が発生。瀕死の被害者は「テン」と呟いて息を引き取った。意味不明の「テン」とは何を指すのか。デート中、事件に遭遇した田島は、新聞記者らしい関心から周辺を洗う。どうやら「テン」は天使のことらしいと気づくも、その先には予想もしない暗闇が広がっていた。第11回江戸川乱歩賞受賞作(「BOOK」データベースより)。

あらすじ/感想

「トラベルミステリ」以前の著作で、初期西村京太郎作品の柱であるとも言える、社会派ミステリの代表作です。

一見ごくありふれた休日を謳歌していただけに見えるワンシーンが、実は全て巧妙に仕組まれた殺人計画と共に成立していたら、後からそれを知った時に果たしてどう感じるだろうかというような怖さが、「天使の傷痕」の核にある刺激です。

殺人の動機には、とある社会問題が絡んできたりもするのですが、序盤ではそのあたりの濃い事情はまるで見えてきません。

たまたま主人公である田島刑事が、休日のデート中に事件に遭遇したという体を取って物語がはじまって以降、序盤では被害者のダイイングメッセージの謎を解き進めていく形での捜査が進展し、話が深く掘られていくので、「まだまだ解決は先になりそうだけど、なんだかんだ、この先に答えがあるんだろうな」という雰囲気がなくもないです。

なのですが、捜査の進展と共に第二第三の殺人事件も発生します。事件発生の度に捜査本部の当初の目論見が崩されていくのですが、中盤にいたってある睡眠薬の存在が浮上したあたりから、どうやら真犯人に近づくものであるらしい分岐が発生します。

以降、序盤の展開とは違った意味でのスリリングさが伴うこととなるのですが、田島刑事の心中に湧いてくる「嫌な予感」が、少しずつ現実に近づいていくことになるんですね。

最終的には、田舎の村落の風習に絡められた社会問題が提起されるのですが、読後感も悪いものではありません。物語全編を貫く精緻なプロット立てが秀逸なので、複雑怪奇な話に安心してのめり込むことができました。

硬派なミステリを好む場合、お勧めの一冊に挙げられます。

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