【ブックレビュー】西村京太郎『終着駅(ターミナル)殺人事件』

blog

この記事を読むのに必要な時間は約 2 分15秒です。

西村京太郎『終着駅(ターミナル)殺人事件』(光文社文庫、2009年)

文庫版としては2009年の出版ですが、初版は1984年(昭和59年)、まだ国鉄在りし日のトラベルミステリです。

7年前に東京に出てきた高校の同級生7人が久しぶりに一堂に会し、みんなで故郷・青森へ帰省しようじゃないかというイベント中の話しがメインとなるのですが、物語は「亀さん」こと亀井刑事の上野駅への想いが、半分モノローグ、半分会話として語られることから始まります。

高校時代の同級生との約束があって久しぶりに再会することとなった、そういうきっかけが与えられたことによって、終着駅としての上野への、東北人「亀さん」の想いが語られることになるんですね。

曰く、同じ都内23区にある駅でも、上野駅には東京駅や新宿駅等と違って独特の旅情がある、半分は東北方面の空気でできた駅のように感じるという「亀さん」のこの思いは、少なからず都会に出てきた同郷=青森県人の人物像描写にも(作中全編を貫く価値観として)反映されるのですが、その前提が読者の目を欺くギミックのように使われることになります。

登場人物が端から読者や警察を欺こうとした結果のトリックが描写されるというよりは、「話しをこう展開させれば、読者はそう思い込んでしまうだろう」というような、登場人物というよりは作者の意思で作られた巧妙な罠が仕掛けられていく、みたいな感じですね。

ある意味、西村京太郎さんワールドの妙、稀有な魅力や読み応えの一つにあたる部分です。

東京に染まっていたとしてもどこか純朴さを感じさせる面も持っている、皆変わらず根はいい奴に違いない、そういう感慨を強く描写することによって、実際には世の辛酸を舐め、あるいは本能の赴くままに生きてしまった時間があったのだという事情をカモフラージュし、さらにはそのことが舞台裏で登場人物間の連帯の強さとなってくるわけです。

一部、「完全にやられた!」(さすがにこれは気づけないだろう)みたいな展開もあったりしますが、この巧妙に作られた話の筋が、本来のトリックと並行で仕掛けられつつ物語は進みます。

まさに全盛期西村京太郎さんワールド全開といった感じの展開ですが、本線のトリックにしても秀逸です。

特に後半、トリックというよりは「人間関係の妙」が巧妙に作る落とし穴にトリックを絡めてくる形になるので、「やられた」感が二重三重にくるんですよね。

最後の最後、要するに作者側が犯人をほのめかすまで、犯人はわかりませんでした。

動機については、まさに最後の最後に明かされます。これがまた逸品です。初読の際は相当なインパクトがあって、その部分だけは今でも覚えていました。

その事件が突発的に起こったというよりは、積年の恨みの延長にあったものであること、それがストーリーの重要部分に絡められる形で昇華され、エンドとなるんですね。

今回は初読ではなかった分、のめり込み度も抑え気味に読み進めることが出来ましたが、誰が犯人だったか、ラストシーンがどうだったかは完全に忘れていたので、その分は楽しめました。

初読であれば、トラベルミステリ全作品中でも屈指のお勧め作です。

タイトルとURLをコピーしました